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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)1291号 判決

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は原告妹尾実に対し金四八三万三、八〇二円、原告妹尾孝枝に対し金三七六万七、八五二円および右各金員に対する昭和四六年七月二日より完済まで年五分の割合による各金員をそれぞれ支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四六年七月一日午後四時四五分頃

2  場所 名古屋市熱田区西郊通五の二五交差路上

3  加害車 被告運転の普通乗用自動車

4  被害車 訴外亡妹尾嘉孝運転の自動二輪車

5  態様 右交差点を被害車が南進中、西進してきた加害車と衝突

6  結果 訴外亡嘉孝は脳挫傷等の傷害により同月七日死亡

二  責任原因

1  人損については運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  物損については一般不法行為責任(民法七〇九条)

(一) 被告には広路通行車に対する避譲義務違反、交差点における左右の安全確認違反があつた。

(二) 仮に、本件事故の態様が、前記交差点を右折中の加害車に被害車が追突したものであつたとしても、被告には右折の方法および停止位置に誤りがあつた。即ち、

道交法第三四条第二項によれば、自動車は右折するときは予じめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ交差点の中心の直近の内側を徐行しなければならないとされている。しかるに被告は、中央分離帯から二・八メートル東側歩道から三・三メートルという東側道路中央付近を南進し、交差点直前(一二メートル)においてようやく右に寄り始めているものであつて、このような被告の違反行為が訴外亡嘉孝の進路を妨害し、且つ右折車発見を遅らせたものと言つてよい。また、被告は右折開始地点より前で右折指示を出していなかつた。

更に、自動車が右折のために一旦停止する際には、対向車は勿論、後続車に対してもできるかぎり進路の妨害にならないような位置に停止すべきことは当然である。そして、本件の場合、交差点における中央分離帯の切れ目は約一五メートルあつたのであるから、被告は中央分離帯西側面延長線(対向車線との境界)まで車の前部を出し、且つ右延長線にできるだけ平行な形で車を止め車両の後部への突き出しをより少なくすることができたはずであり、又そうするべきであつた。しかるに被告は対向車のみに気をとられ後方にもさしたる注意を払わず漫然と交差点中央分離帯付近に停車したため、分離帯西側線より車の終端までの長さが三メートル以上になり訴外亡嘉孝の走行してくる進路を妨害したものである。

(三) 以上のとおり、被告の過失は明らかである。

三  損害

原告実は訴外亡嘉孝の実父、原告孝枝は同訴外人の実母であり、同訴外人の損害賠償請求権を各二分の一の相続分に従つて相続したものであるところ、その各損害は別紙損害計算表のとおりである。

四  結論

よつて、被告は原告らに対し、右損害賠償金およびこれに対する本件不法行為の翌日より完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の認否

一の1ないし4および6は認めるが5は争う。

二の1は認め、3は否認する。

三は不知。

第四被告の主張(免責)

本件事故は訴外亡嘉孝の一方的過失によつて発生したものであり、被告には何ら過失がなかつた。即ち、

本件事故の態様は、被告が加害車を運転し、本件事故現場より約一〇〇メートル北方にある、西町通りに通ずる交差点を東方から南方へ左折し中央分離帯と約一・四メートルの間隔を保つてこれに沿つて南進し、左折より約六〇メートル進行した地点で、本件衝突現場の交差点を右折(西進)すべく方向指示器を出し(ウインカーの点滅)その儘、約三五・一〇メートル南進し、中央分離帯切れ目より約五、六〇メートル南方でハンドルを右に切り、車両前部を西南に向け右折すべく対向車をやりすごす為停車したところ、しばらくして、被告が対向車をやりすごした瞬間、加害車の後方約六七メートルを時速約六、七〇キロメートルで南進してきた訴外亡嘉孝運転の被害車がノーブレーキにて、停車していた加害車左側に追突して来たものである。従つて、被告は当初より中央分離帯寄りに走行し、被害車が追突した地点より手前約三五・一〇メートルで右折の方向指示器を出して、後続車両に右折を明示しており、かつ中央分離帯切れ目より南約五、六〇メートルの地点で対向車両をやりすごすべく停車しており、他方訴外亡嘉孝は加害車と間には約六七・四〇メートルの間隔があつたから同車が先行していることを充分に注意し得たにも拘らずこれを無視し、また事故当時ドシヤ降りの降雨で、同訴外人は眼鏡をかけてオートバイを運転しており、このような場合雨が眼鏡に吹きつけ前方の注視が不可能となるから極力速度を落し前方の確認が出来るように、充分配慮すべきであるのに時速約六、七〇キロメートルで突走り、そのため前方を進行していた加害車の右折指示を無視し、且つ右折の為停車した同車にその儘追突して来たのであり本件事故は専ら訴外亡嘉孝の前方注意義務の懈怠に基因し、自殺行為にも匹敵すると言わざるを得ない。更に、通常後続車両に対して右折方法の不適当が論議されるのは併行或はその直近を後続する車両についていえることであつて、右折の所作と同時又はこれに極めて近接する瞬間に追突させられたというのであればともかく、本件の場合、被告は右折の為中央分離帯に沿つて数十メートル走行ししかも訴外亡嘉孝と六〇メートルの距離があつたのであるから、被告に右折方法の不適当があつたとの主張は全く不当という他はなく、本件事故の発生は被告の右折方法、及び停車位置とは因果関係はないもので、専ら訴外亡嘉孝の前記過失に基くものと断言しうる。

更に加害車には構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

第五被告の主張に対する原告らの答弁

争う。

第六証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因一の1ないし4および6の事実(日時、場所、加害車、被害車、結果)は、当事者間に争いがなく、同5の事故の態様については後記二で認定するとおりである。

二  責任原因

請求原因二の1の事実は当事者間に争いがない。そこで、被告の免責の主張について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第一ないし第一四号証、証人田中政幸同小笠原平の各証言、被告本人尋問の結果によれば、

(1)  本件事故現場は、南北に通ずる幅員二四・一メートルの舗装道路と東西に通ずる幅員六メートルの道路とがほぼ直角に交わる交差点(以下本件交差点という。)で、交通整理は行われていなかつた。そして南北道路の中央には〇・九メートルの中央分離帯があつて、車道の幅員は片道七・六メートルあり、両端にそれぞれ幅員四メートルの歩道が設置されており、また、同道路は毎時五〇キロメートルの速度制限がなされていた。更に中央分離帯は本件交差点内では途切れており、北側中央分離帯の南端と南側中央分離帯の北端とは約二四・五メートルの間隔がある。

(2)  なお、事故発生日の昭和四六年七月一日午後四時四五分ころの天候は豪雨であつた。

(3)  ところで、被告は加害車を運転し、本件交差点より約八〇メートル北方の交差点(以下、北方交差点という。同交差点は同地点を東西にのびる道路と本件交差へ通じる南北道路とがほぼ直角に交わる交差点である。)の東側道路から進入し、同所を左折して右南北道路を南進した。そして本件交差点で右折するため、南進車道の中央よりやや右側(中央分離帯寄り)部分を走行し、後記衝突地点から約二〇ないし三五メートル手前(北方)でルームミラーによりその約四五ないし六七メートル後方を被害車が南進してくるのを確認するとともに方向指示器で右折の合図をした。そして本件交差点に差しかかつたが、折柄、北進する対向車があつたので、その通過を待つため、後記衝突地点において、中央分離帯の切れ目から南進車道上にわたり、車体を右斜め(南西)に向けて停車した。

(4)  他方、原告らの子である訴外亡嘉孝は被害車を運転し、北方交差点の更に北方から、本件交差点へ通じる南北道路を南進し、加害車に後続して時速五〇ないし六〇キロメートルで本件交差点に差しかかつた。

(5)  そして、前記北側中央分離帯の南端からほぼ南南東へ五・六メートル、同分難帯の南方延長線上から東へ一・九メートルの地点において、前記停車中の加害車の右後部車輪付近に被害車の前部が追突した。

(6)  なお、事故現場付近には、加害車或いは被害車のものと窺われるスリツプ痕や路面の傷跡はなかつた。

以上の事実が認められる(なお衝突地点について、右認定に反する甲第三号証は、甲第一一号証、証人田中政幸の証言、被告本人尋問の結果に照らし、措信できない。)。

(二)  ところで、およそ追突事故については、被追突車が急に進路変更をしたり急停止または急な減速をしたような場合を除き、原則として追突車の前方不注視や車間距離不保持の違反に一方的な過失を認めるべきものと考えられるところ、本件の場合、前記認定事実によれば、被追突車である加害車は本件追突地点に至るまで数十メートルの間、進行車道の中央よりやや右側(中央分離帯寄り)部分を走行し、ほぼその進路上で追突されたもので、急な進路の変更はなく、更に加害車は後続の被害車との距離が少くとも四五メートルあつた時点で右折の合図をし、まもなく対向車の通過を待つため停止したもので、被害車に対し、急停止や急な減速となるような操作はなかつたものと認められ、他方、追突車である被害車は先行していた加害車との距離が同車の右折合図の時点で少くとも四五メートルはあつたこと、進行車道の幅員は約七・六メートルであつて、中央分離帯寄りを走行している加害車の左側を通過しうる余地は十分あつたこと、事故当時は豪雨であつて、被害車のような自動二輪車の場合、前方の注視が困難であるのに、かなりの高速で走行していたこと、被害車のスリツプ痕や路面の傷跡がなく、同車が加害車への追突を回避しようとした形跡が窺われないことなどを考え合わせると、前方の注視をほとんどしないまま運転走行したものと認められ、本件追突事故については、加害車の被告には過失と評価しうる程の責はなく、被害車の訴外亡嘉孝に前方不注視の一方的な過失があつたものと認めざるを得ない。

(三)  更に、成立に争いのない甲第一号証、および弁論の全趣旨によれば、加害車には本件事故の発生に関連のある構造上の欠陥または機能の障害はなかつたものと認められる。

そうすると、被告の免責の主張は認められるので、結局被告には自賠法三条および民法七〇九条の責任はない。

三  結論

以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 熊田士朗)

損害計算表

1 診療費 148,450円

〈1〉 坂野外科 141,490円

〈2〉 西垣眼科 6,960円

2 入院付添費 7,000円

母親が付添つた7日間につき一日1,000円の割合

3 葬祭費 177,550円

〈1〉 葬儀料 127,550円

〈2〉 祠堂料 50,000円

4 嘉孝の得べかりし利益

月収 43,300円(労働省統計による昭和46年度高卒男子18歳平均給与)

生活費(1/2) 21,650円

就労可能年数 45年(18歳~63歳)

ホフマン式利息控除係数 15.48(28.08~12.60)

43,300×1/2×12×15.48=4,021,704

〈1〉 原告実の相続分(1/2) 2,010,852円

〈2〉 原告孝枝の相続分(1/2) 2,010,852円

5 慰藉料

〈1〉 原告 実 1,750,000円

〈2〉 原告 孝枝 1,750,000円

6 物損(オートバイ損壊) 346,950円

事故車下取価格 62,000円

新車 385,000円

登録保険 23,950円

385,000-62,000+23,950=346,950

7 弁護士費用 400,000円

原告 実の損害

上記の1+3+4〈1〉+5〈1〉+6+7=4,833,802円

原告孝枝の損害

上記の2+4〈2〉+5〈2〉=3,767,852円

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